食の歴史その34~箸の文化と作法~

27 7月

おはようございます。今日も皆さんの暇つぶしになればと願って、コラムを書いて見ました。

日本における食生活の基本はお箸です。最近は正しく使う人が少なくなった、という声をご老人から、しばしば聞くのも、箸は物を食べる単なる道具ではなく、民族がはぐくんできた文化という思いがあるのだと考えられます。

その背景には箸を使う食べ方が、手で食べる方法を別にすれば最も古い食器を使った作法なのだという事もあります。

箸のルーツは中国でして、およそ3400年前の殷王朝の都から、多くの出土品の中に世界最古の青銅で出来た箸が発掘されていますが、それは日常の食生活に使用したものではなく、祖先に供え物をするための儀式的な道具だったと推測されています。

箸が生まれた背景には、衛生面や熱い料理を取りづらいという問題がありました。

他にも、来客や目上の人とともに食事をする際、手掴みだと飯を丸めてしまい、どうしても多めに取ってしまう傾向があり、すると食をめぐる醜い争いという印象を与えるために、1度に多く取れない食器が必要であった、という内容が孔子の教えを伝える儒教の経典『礼記』に書かれています。

いかにも礼儀を重んじる儒教の国らしい発想です。

ともあれ箸は、長い間王侯貴族の宴席に限って使われていましたが、ようやく大衆のものとなったのは2100年ほど前の漢王朝の時代となります。

先の『礼記』には「おかずは箸、飯はサジを使うこと。具の無い吸い物も箸を使わない」と当事の箸使いのマナーが説明されています。

つまり、箸はサジの添え物的な存在で、漢王朝の時代から700年ほど経った唐王朝の時代でもサジと箸の半々で使われていました。

箸が必須の食器となるのは、麺類が庶民の食べ物として人気を呼ぶようになった1000年ほど前の宋王朝の時代以降となります。

説明するまでもありませんが、麺類を食べるときはサジより箸の方がもっと扱いやすく。この風潮が箸文化を大きく後押しし、更には中国の歴史で初めて中国南部を拠点にして、およそ700年前に天下統一した明王朝の時代になりますと、中国南部に流れる長江周辺の粘り気のある米飯は箸にもってこいの食器で、ここにきて箸が主役になっていきます。

わが国の箸文化の始まりについては諸説ありますが、一般には西暦607年に小野妹子(おののいもこ)が隋から持ち帰ったとされ、聖徳太子が朝廷の儀式に初めて採用したと伝えられています。

それ以前は手掴みだったのは言うまでもありません。

箸文化は世界的に見ると、東アジアとベトナムに見られる局地的な食事の作法です。

しかし、同じ箸文化でも色々と違いがあります。

たとえば、中国や朝鮮半島の端は長くてずんどう形でで、先は丸くて尖っていないのが特徴で、日本人には少々扱いづらいものとなっています。

材質も中国は竹か象牙で出来た箸で、朝鮮半島は基本的に金属製の箸です。

先端が丸いのは、凶器として使わせないための配慮だったと言われています。

大皿などに盛られている料理を自分の箸で取る「直(じか)ばし」は、日本ではすき焼きなどの一部を除くと不作法とされているが、中国・朝鮮ではすべて直ばしで逆に「取りばし」というものがありません。

これは食器に対する個人所有の概念が無く、家族を単位とする平等性、共有性といった大家族制な考えから生まれたものらしいです。

日本では図のように箸は横向きに並べるのが礼儀ですが、中国・朝鮮では縦に並べるのが常識になっています。

かつては、目上の人より先に食べ終わったときに謙遜の意を表すため、本家の中国でも横向きに置くのが常識でしたが、宋の時代からモンゴル帝国の中国征服によって生まれた元王朝へと支配者が移り変わっていくと同時に箸の置き方も縦向きに変わっていきます。

その最大の原因は北方の騎馬民族をはじめとする異民族の侵入によって、肉食を中心とした食事へと変わっていったことにあります。

肉食中心の食事に使うナイフはうっかりすると怪我をしかねない、そこで自然とナイフの先を反対側に向けるように縦に置いたマナーがやがて作法として定着してしまったと思われます。

箸の先が丸いのも同じ理由だとされています。

これらは、西洋のフォークやナイフを使う食事マナーと共通する点でもあります。

さらに付け加えますと、中国・朝鮮は必ずしも箸が食器の主役ではありません。

中国ではスプーン状もチリレンゲ、朝鮮半島ではサジをあわせて使用し、箸はおかずをつかむ補助的な食器です。

ですので、箸だけで事足りる日本こそ純粋な箸文化の国と言えるかも知れません。

その日本の伝統的な和食は箸にはじまって箸に終わるといわれるほどです。

日本人の箸に対するマナーは、箸文化圏の中でもっともうるさい国だと思われます。

たとえば、箸袋ひとつ挙げても、まず右手で取り上げ、左手を添えつつ右手で袋から引き出して箸置きに置きます。

その後も箸を取ったり置いたりするたびに、必ず左手を添えるのが基本といったように、正式には細かな作法があります。

現在は多くの人がこのような細かな作法にとらわれていませんが、それでもこれほど箸の扱いにうるさい国は、中国・朝鮮でさえ見られません。

日本人の箸のこだわりは、直ばし、取りばしの区別は言うに及ばず、利休箸、元禄箸、柳箸、天削(てんそげ)箸など形状によるもの、菜(さい)箸、割り箸、塗り箸など用途によるもの、さらに男女別箸、子供用箸といった区別があったりと、実に多種多様にわたっていることからも理解できます。

また、箸への作法はその持ち方にまで及びまして。「箸の上げ下げまで・・・・・・・」という慣用句があるほどですので、当然作法に反した「べからず」スタイルが生まれました。

器の中の料理を箸で探りを入れる「さぐり箸」、料理にあれこれ端を向ける「迷い箸」、椀の上に箸をかけ渡す「渡し箸」などですが、中国や朝鮮でも「渡し箸」は行儀が悪いとされています。

以上でコラムは終わりですが、皆様いい暇つぶしになったでしょうか?

1件のフィードバック to “食の歴史その34~箸の文化と作法~”

  1. ふぇい 2015年5月9日 @ 2:09 午前 #

    勉強になりました!

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